毎回新しいテーマと楽曲で綴る井上景さんの19世紀ギターの夕べ。今回は当時のギターへの向き合い方やその発展を期して大作を書き上げたモリト―ルを主人公に、彼がギターに込めた思いを、彼の愛した楽器「マンドーラ」の作品などと共にお届けします。
~ ある音楽史家の試み ~
1806年のウィーンで、「大ソナタ」と題されたギター曲が出版されました。ギタリストであり音楽史研究者でもあったモリトールの手によるこのソナタは、4楽章から成る堂たる内容と、16ページに及ぶ長大な序文で異彩を放っています。
序文においてモリトールは、撥弦楽器の歴史を古代エジプトや古代ギリシアの時代から書き起こし、中世の世俗音楽、教会音楽、15世紀以降のリュート属などに触れつつ筆を進め、19世紀初頭に普及しつつあった6弦ギターの魅力、ギター音楽の抱える問題、特に、作曲技法を知らぬギタリストのことなどを述べていきます。そして、「ギターを、より完璧に扱うための試み」として、自らこの「大ソナタ」を書いたことを記し、これをきっかけとして良い作品が生み出される未来を期待しつつ、文章を締めくくっています。
今回の演奏会では、この「大ソナタ」の演奏、併せて、この序文の中で19世紀のギターに近い楽器として紹介されている18世紀のマンドーラ(リュートの一種。ガリコーネとも呼ばれる)のための作品や、モリトールが「より良い演奏や作曲のスタイルを取り入れ始めた地元の音楽家」と評した作曲家の作品も合わせて取り上げます。